変形労働時間制とは、1年や1か月、1週間という単位で、必要な労働時間に偏りがある場合に、原則の1日8時間・週40時間を超えて働くことができるようにする制度です。どの制度も、ある期間は長く働いて、その代わりに別の期間は所定労働時間より短くすることで、平均すると原則の労働時間と同じ時間になるように調整するものです。
これらの制度は、会社側の都合に合わせて労働力を合理的に投入するための制度です。会社の都合に合わせるという言い方をすると悪く聞こえるかもしれませんが、上手に労働力の需要と供給の差を埋めて、全体として労働時間を減らすことが目的です。
フレックスタイム制は、始業時間や就業時間に裁量を持たせることで、個人個人の事情に応じた労働時間を選択できるようにするものですが、これも最終的には、原則の労働時間に合うように調整する必要があります。
この制度は、変形労働時間制と異なり、労働者の都合に合わせて使える制度で、働きやすい環境づくりに役立つものです。
労働時間に関しては、労働時間とはを参照ください。
1か月単位の変形労働時間制
1か月単位の変形労働時間制は、1か月以内の期間(短くてもよい)での業務量のバラつきに 対応するための制度です。
労働時間の特定
あらかじめ、 期間内の各日と各週の労働時間を特定しなくてはなりません。最初に決めた労働時間を途中で変更することはできません(昭和63年1月1日基発第1号)。
特定された労働時間を超える場合は、36協定の締結と届出が必要です。
労働時間は、週平均40時間以内となるように定めます。特例措置対象事業については、週平均44時間以内とすることができます。
これを超える場合にも、36協定の締結と届出が必要です。
労使協定または就業規則等
労使協定または就業規則(常時10人未満の事業場はそれに準じるもの)で下記の事項を定める必要があります。 労使協定に定めたときは、 届出が必要です。
- 変形期間の長さと起算日
- 対象労働者
- 変形期間内の各日と各週の労働時間(就業規則の場合は始業・終業時刻も定める)
- 有効期間(労使協定の場合。 3年以内が望ましい)
派遣労働者に適用するときは、派遣元が労使協定または就業規則に定めることが必要です。
1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制は、1か月を超え、1年以内の期間を対象とする制度です。1か月以内のときは、1か月単位の変形労働時間制を採用することになります。
特定期間
特定期間とは、対象期間中の特に忙しい期間のことです。この期間に指定すると 連続労働日数の制限が緩和されます。
特定期間を設定しない場合は、 「特定期間を定めない」と定める必要があります(平成11年3月31日基発169号)。
特定期間は、対象期間の相当部分を指定することはできませんが、複数の期間を設定することはできます(同)。
特定期間の途中変更はできません。
労働時間の特定
あらかじめ、 期間内の各日と各週の労働時間を特定しなくてはなりません。たとえ労使協定に途中変更の記載をしたとしても、最初に決めた労働時間を 途中で変更することはできません。
特定された労働時間を超える場合は、36協定の締結と届出が必要です。
ただし、対象期間を1か月以上ごとに区切り、その区分ごとに、順番に労働時間の特定をしていくことができます。
この方法は、当初は、最初の区分期間についてのみ労働日ごとの労働時間を定め、その他の区分期間は労働日数と総労働時間のみを定めます。そして、次に到来する区分期間の詳細な特定は、 その初日の30日前までに労働組合(または労働者の過半数)の同意を得て、書面で行います。
労働日数の限度
労働日数の上限は、 対象期間が3か月を超える場合は、1年あたり280日までです。
また、連続で労働することができる日数の限度は6日間となっていますが、特定期間については1週間に1日の休日があればよいとされます(前後に休日を配すれば最大12日間の連続労働が可能)。
労働時間の限度
労働時間の限度は1日10時間・週52時間です。
対象期間が3か月を超える場合は、さらに
①48時間超の週は連続3回まで
②3か月ごとに区分した場合に、その区分ごとに48時間超の週が3回まで(正確には48時間を超える週の初日が3以下)
労働時間は、対象期間を通して週平均40時間以内となるように定めます。 44時間の特例措置は適用できません。
これを超える場合にも、36協定の締結と届出が必要です。
その他、隔日勤務のタクシー運転手は、1日16時間、週52時間が限度です。
賃金の清算
対象期間中の途中退職者は、対象期間より労働期間が短くなり、この制度の趣旨に合わなくなります。
そのため、 1週間の上限は法定通り40時間とし、それを超えていたときは割増賃金の支払いが必要になりますので、対象期間中に退職することが決まったときは、「 清算」することになります。
期間中の 途中入社や 配置転換についても同じように、この制度をそのまま適用することはできません。
ただし、育児休業や産前産後休業の者については、清算はされません。
労使協定
必ず 労使協定を結び、 届出をする必要があります。内容は下記の通りです。1つの事業場で複数の変形労働時間制を運用することも可能です。
- 対象労働者
- 対象期間とその起算日(1か月超1年以内の期間のこと)
- 特定期間
- 対象期間における労働日及びその労働日ごとの労働時間
- 労使協定の有効期間( 1年程度が望ましい)
派遣労働者に適用するときは、派遣元が労使協定に定めることが必要です。
1週間単位の変形労働時間制
この制度は、土日や周辺のイベントなど、日によって繁閑の差が激しい業種に対応する制度です。直前になって忙しさが変動される場合があり、最悪は前日のキャンセルや注文にも対応できるようなものになっています。
対象事業
適用するには、下記の2つを満たす必要があります。
①小売業、旅館、料理店及び飲食店
②常時使用する労働者数が30人未満
事前の通知
1週間の各日の労働時間を、その1週間の開始前に 書面により通知しなくてはいけません。
緊急でやむを得ない場合は、 前日までに書面で通知することにより、 変更をすることができます。
労使協定
労使協定の締結と届出が必要です。
協定には、 労働時間の特定は不要です。
週44時間の特例措置は使えません。
フレックスタイム制
フレックスタイム制は、各労働者に始業・終業の時刻を自由に選択させる制度です。短時間労働とは異なり、基本的には一般の正規社員と同じ所定労働時間を労働します。
家庭の事情や個人の特質によって変更できるので、働きやすく社員の実力を発揮しやすい職場環境の形成に役立ちます。
始業時刻と終業時刻
始業時刻と終業時刻の両方を選択できる制度でなくてはいけません。
終業時刻が決まっていたり、終業時刻は「始業時刻から何時間後」と自然に決まってしまうものは認められません。
コアタイムとフレキシブルタイム
コアタイムとは労働者が必ず 労働しなくてはならない時間です。
フレキシブルタイムとは、労働するかどうかを 選択する時間です。
必ず定めなければならないものではありません(フレキシブルタイムのみでもよい)が、コアタイムがないと全体での打ち合わせ時間の設定などが困難になりますし、一斉休憩の適用も難しくなるので、定める方がいいでしょう。
一斉休憩について、コアタイムがないときは適用除外が必要になり場合があります。
休憩については、>休憩の必要性をご覧ください。
ほとんどがコアタイムで、 フレキシブルタイムが30分など極端に短い制度は意味がないので 認められません。
清算期間
清算期間とは、総労働時間の設定をする時間のことです。
1か月以内の期間(平成31年4月1日からは3か月以内)とし、開始する日を明らかにする必要があります。
平成31年4月からの変更は、>働き方改革の注意点(その他)を参考に。
清算期間の中で 、1週間平均40時間(特例措置44時間)であれば、36協定や割増賃金は不要です。
清算期間中で週平均40時間に 満たなかったときは、不足時間を次の清算期間に繰り越すことができますが、週平均40時間を 超えたときは、超えた分を繰り越すことはできません(割増賃金の支払いが必要)。
労使協定と就業規則等
就業規則(10人未満は準じるもの)に定めをしたうえ、労使協定の締結が必要です(届出は不要)。
定める事項として下記は必須です。
- 対象労働者
- 清算期間
- 清算期間中の総労働時間
- 標準となる1日の労働時間
また、下記が必要になる場合もあります。
- コアタイム(設定する場合)
- フレキシブルタイム(設定する場合)
- 有効期間(清算期間が1か月超の場合)
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